「テアトロ」 2005年9月号 掲載
私のメロディ

時折、SP盤の古いレコードを出して聞いてみる。
シャーシャーというノイズの向こうに、初めて舞台に立った時の記憶が蘇ってくる。


九州の炭鉱町の片隅で芝居小屋をやっていた僕のうちには浪曲・歌謡曲を中心にいろんなジャンルのレコードがあった。
今から50年ほど前の話だ。
その頃の大衆演劇は映画に押されて来たとはいえ、我が街ではまだまだ娯楽の王様、そして炭鉱も元気だった。炭労主催の敬老会に向けて、父が姉の踊りの稽古をつけていた。

○○流というのではなく歌謡曲に合わせた、いわゆるアテブリ。
ずーとその稽古を見ていた僕は本番前日になって「俺も踊る」と言い出したらしい。父から「じゃぁ踊ってみろ」といわれて踊ると、正面から見て覚えたものだから鏡のように上下が逆だった。
母が徹夜で衣裳を作ってくれた。巡礼姿に菅笠と杖を持って髪には赤いリボンをのせていた。
曲は当時流行っていた鈴木三重子の『むすめ巡礼』(星野哲郎作詞・下川博省作曲)。
客席の方々から「花」が飛んできた。4歳で稼いだ初めての小遣いだった。