「俳優・タレント育成ガイド 「テアトロ」臨時増刊号 2006・2007年度版 掲載 
イチローを超えよう

「演劇」を英語ではプレイ。
つまり「あそび」。俳優は「アソビニン」とでも言いましょうか。
でも意外や、この「アソビ」や「俳優」という言葉はかなり古いのです。
古事記や日本書紀に登場します。神楽(かぐら)は「神アソビ」であったし、俳優は「ワザオギ」といって神の技を招く超能力者でした。
そういえばイチローがホームラン性の打球をフェンスぎりぎりでキャッチした時は「ファイン・プレイ」といいますね。
でもイチローは、普段僕らが言うような「遊び」をしているわけではなく、「神業のようなプレイ」をしているわけです。
それによって感動を与えています。
どうもプレイというのは人様の前で何かをやって感動させることのようです。
でもいちばん喜んでいるのはその「プレイ」をした本人です。
おまけに拍手はもらえるし、お金も稼げるとなればいうことなし。

俳優の表現手段はこの肉体しかありません。
ですからこれを常に鍛えておく必要があります。
また、それぞれに身体も知識や経験、性格も違います。これらをひっくるめて「個性」といいますが、人それぞれに違っていいのです。
しかし、それで人様を感動させ、お金をいただくにはそれなりに努力がいります。
「もっと自由に生きたい」とか「私は個性的だから」なんて思ってそのままにしておくといずれ錆付いてしまいます。
また、俳優に限らず音楽家でも絵描きでも、何かを表現する人は、その表現したいことや欲求が必要です。
「何を美しいと思うか」それがその表現者の運命を決めるのだと思います。

それはさまざまなアートに接することばかりではなく、生き方に関わってくることだろうと思うのです。
俳優はマニュアルでは育ちません。
僕らの仕事は人間表現業であり接客業でもあります。
難しい仕事だなあと日々悩んでいるのですが、拍手をいただけるだけでそんなことは何処かへ吹き飛んでしまいます。
ノーテンキですねえ。