朝日新聞 「ひと」  2012年10月24日掲載
 
一人芝居で通算1000回の舞台に立つ
中西 和久さん

時には65役を小気味よく演じ分け、三味線や太鼓を自在に操りながら観客を物語の世界に引き込む。スピード感あふれる一人芝居は「芸能トライアスロン」と言われるほどだ。

芝居も遊びも英語で言えばプレー。どれだけ観客を楽しませられるか、そこが面白い」。26、27日、故郷・福岡市の住吉神社能楽殿で通算千回記念の公演を開く。
祖父は芝居小屋を営み、高校教師の父も演劇の指導者だった。大学卒業後、偶然募集していた小沢昭一主宰の劇団「芸能座」に入団。5年で解散したが、その後サーカスで働き、芸で生きる心構えを教えられた


1986年、33歳のとき、福岡の被差別部落の伝承を劇化した「火の玉のはなし」で一人芝居の世界へ。89年には、人との間に子をもうけたキツネが家族と引き離される悲話「しのだづま考」を初演。ハンセン病の強制隔離や人身売買問題を想起させる作品も手がけ、国内外で上演を重ねてきた。

講談などの要素が詰まった「説経節(せっきょうぶし)」の形をとる。文字を知らなかった庶民の希望が織り込まれた「記憶の芸能」への共感からだ。
差別に苦しむ人々を演じることは、原発や沖縄の基地、水俣病など人命が軽々と扱われる現代を問うことに通じる。「身近な人々が引き裂かれた物語を通して、何が幸せなのか、観客と一緒に考えていきたい。」

(安斎耕一)