2012年11月26日 解放新聞掲載 |
1986年、福岡の被差別部落の伝承『火の玉のはなし』(原作=組坂繁之・当時部落解放同盟筑後地区協議会書記長、現在同中央本部執行委員長・同福岡県連委員長)を一人芝居にしてツアーをはじめ、いまや、国内外で活躍する俳優中西和久さんのひとり芝居1000回記念公演『しのだづま考』(作・演出ふじたあさや)が10月26日・27日、福岡市博多区の住吉神社能楽殿で催された。
同作品は’89年「リバティおおさか」の企画で初演され、’91年度文化庁芸術祭賞をはじめ数々の演劇賞を受賞。韓国・東欧・ロシアなどの国際演劇祭からも招待されるなど、日本を代表するひとり芝居となっている。
「信太妻」伝説は、大阪和泉市が発祥とされ、安倍晴明出生譚として中世の放浪芸・説経節の演目の一つとなり、歌舞伎・文楽・各地の伝承芸能としても広く伝えられている。
命を助けてもらった女狐が「葛の葉」と名乗る美しい娘に化身し、その恩人と暮らすうちに子どもを授かり幸せな家庭を築くも、ある時我が子に真の姿を見られ泣く泣く元の棲家に帰っていく。
中西さんは27役を小気味良く演じ分け、説経節、講談、太鼓、三味線等々多彩な芸の数々を織り交ぜながら客席にも語りかけ物語を展開していく。能楽殿の桟敷席を埋め尽くした客席からは、時にすすり泣きの声と共に爆笑が沸き起こり、万雷の拍手のうちに記念公演は幕を閉じた。
中西さんのひとり芝居には他に『山椒大夫考』『をぐり考』『ピアノのはなし』があり、いずれも被差別の視点から命や人権を問う作品となっている。
「ひとの命が軽々しく扱われる時代ですから、何が幸せなのかお客さんと一緒に考えてみたくなりますねえ。」と中西さんは語る。
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