2012年9月20日 西日本新聞掲載
 

 気付けば四半世紀を過ぎていた。1986年の初演から数え、ひとり芝居の千回目の公演が目前に見えてきた。「芝居も遊びも英語で『play(プレー)』。もう一度、遊んでみようか」。小中高時代を過ごした福岡市博多区で、遊び場でもあった住吉神社の境内にある能楽殿を節目の舞台に選んだ。10月26、27両日の記念公演で代表作「しのだづま考を演じる。

 福岡県大牟田市生まれ。実家は大衆演劇の芝居小屋を営み、初舞台は4歳だった。大学卒業間際に俳優小沢昭一さん主宰の劇団「芸能座」に合格し、本格的に演劇の道へ。独立後は、宗教と芸能が未分化だった中世に庶民が熱狂した説経節を基とする3部作「しのだ―」「山椒太夫考」(さんしょうだゆう)「をぐり考」を軸に、公民館から海外の演劇祭までひとり芝居を演じてきた。

 表現の原点に、筑豊の炭鉱記録絵師山本作兵衛が残した絵との出合いがある。記録作家の故上野英信の要望で85年に作兵衛の一周忌記念祭の台本などを手がけたのがきっかけだった。「人の視線に惑わされない、野太いものを感じた」。文化は東京にあるという思い込みを覆された。以来、足元の文化を、芝居で表してきた。
 汗みずくで何十役をも演じる。語り、舞い、歌う―芸とは、文字を知らなかった庶民が体験や記録を織り込んだ記録でもある。「舞台を見つめる観客にも、そのDNAはある。そこを頼りに芝居を作っていく」。東京で劇団「「京楽座」を主宰。59歳。



(大矢和世)