京楽座、初の集団劇。
中西和久ひとり芝居説経節三部作VOL3「をぐり考」が歌芝居に生まれ変わりました!
総勢16名でお送りする、小栗判官と照手姫の切ない恋。




二条の大納言の世継ぎ・小栗は文武両道に秀でるが、いまだ定まる妻もなく、深泥池(みぞろがいけ)の大蛇と契ったことで都から常陸(ひたち)の國へ追放される。しかしそこでも、相模の豪族横山家の娘・照手姫のもとへ押し入り婿となる。ところが、義父の怒りをかった小栗は毒殺され、照手も相模川に流されてしまう。一命を取りとめたものの、照手は人買いの手にかかり、美濃(みの)青墓(おおはか)の遊女屋で水仕女として苦役を強いられることとなった。
 一方の小栗は地獄の閻魔の慈悲で生き返ったが、見るも無惨に腐り果てた「餓鬼(がき)」の姿となり、土車に乗せられて相模から熊野湯の峰へ心ある衆生に曳かれていく。青墓の宿でこの土車を見かけた照手は、それが吾が夫とも知らず、曳き綱にすがりつくのだった。
 「えいさらさ えいさらさ・・・」照手は、遊女屋の主人に五日の暇をもらい大津の宿まで土車を曳き、後ろ髪を引かれる思いで再び青墓へと帰っていく。やがて熊野湯の峰にたどり着いた餓鬼(がき)阿弥(あみ)は薬湯の力で病本復し、元の小栗となって都へ上る。美濃青墓の照手のもとを訪れたのは、それからまもなくのことだった・・・。






 1999年5月2日 和歌山・熊野本宮大社旧社地・大斎原にて、中西和久ひとり芝居として初演した「をぐり考」を再構成し、総勢16名の集団音楽劇として生まれ変わった。鬼鹿毛と小栗の格闘シーンや小栗判官と照手姫の再会のデュエットなど、ひとり芝居よりさらにスケールアップされ、見所満載な作品。

<初演> 2005年2月4日(金)〜6日(日) 両国・シアターX
作・演出 ふじた あさや
音楽 平井 澄子  田原 順子
音楽監督 高橋 明邦
美術 石井 強司
衣裳 堂本教子
人形美術 福永 朝子
振付 加々美 洋子
照明 坂本 義美
音響 鈴木 茂
所作指導 古澤 侑峯
歌唱指導 信太 美奈
衣裳制作 危婦人
演出助手 スギタクミ
宣伝美術 おかめ家ゆうこ
照明操作 浅野 克己
音響操作 二木 くみこ
舞台監督 猪俣 孝之
協力 スターダス21
制作 月島 文乃   杉田 丘美
共催 シアターX
[出演者]

中西和久 小田桐一 紺野相龍 杉浦佳代子 松田光輝
綾香詳三 浦岡もえ 小河原真稲 柿森ななこ 渋沢康子
西原綾子 西村剛士 羽野大志郎 黄英子 森谷あずさ 渡辺大吾



 ひとり芝居の旅を始めて、試行錯誤を繰り返していた頃ふじた先生にお願いして生まれたのが「しのだづま考」でした。89年のことです。以後「山椒大夫考」「をぐり考」と一連の説経節シリーズが誕生し京楽座という僕のひとり劇団は今年で10年になります。
 昨春ふっと、僕のひとりとり芝居を集団でやってみたらどうなるのだろうとはた迷惑な事を考えたのがこの企画のはじまりでした。「をぐり考」では一人65役を演じています。ひとり芝居で一番苦しいのは稽古です。演出家は終盤戦にはいってからではないと見てはくれないし、それまでは締め切られた空間で一人ワーワーやっているだけです。誰も見ていないからすぐ止めたくなる。たぶん一人の時間が長すぎてながすぎて、淋しかったのです。
 オーディションをしたら才能と個性にあふれた俳優達が集まってくれました。今までは僕のひとり芝居だったので稽古は何処でもよかったのですが、この芝居に向けて築地に小さな稽古場を設けました。出演者総勢での床張りでした。
 初日を前に、今日は稽古場でこれまで僕一人で曳いてきた餓鬼阿弥車を、皆それぞれに工夫を凝らしながら、寒中汗だくで曳いています。稽古場がお祭り騒ぎです。ひとり芝居の稽古では味わえなかったことです。「稽古は楽しい」。再発見です。呼びかけに応えてくれた出演者の皆様、いつもの心強いスタッフの皆様、心から感謝申し上げます。そして、何はなくともお客様。餓鬼阿弥車の男綱女綱を曳くのはたぶん客席のあなたです。
「をぐり」のその奇想天外で雄大なスケールは、説経節の中でも群を抜いた面白さです。お楽しみください。
ご来場ありがとうございました。


京楽座主宰 中西和久  初演当日パンフレット「稽古場雑感」より





 京楽座『歌芝居 をぐり』(作・演出ふじたあさや)は、説経節の古典の斬新な上演だ。説経節は、ひとりの演者が三味線をつまびきながら、操り人形を使ったりして口演する民衆芸能だ。京楽座の主宰・中西和久の極めつけのひとり芝居が、多数の演者による劇団総出演の「歌芝居」になり、物語の魅力がみごとに伝わるようになった。小栗判官(浦岡もえ)と照手姫(森谷あずさ)の愛のロマンが、鮮烈な印象を残す。ふじたあさやが平井澄子、田原順子、中西和久らと組んで、説経節の再生に多年にわたり実験を積み重ねてきた。今回の公演は、画期的な感動の舞台である。
             
中本信幸(評論家)   「テアトロ」4月号 より